諸説ありますが、日本に焼酎が伝来したのは15世紀の中頃だと考えられています。
また、文献記録で確認できる限りでは、「焼酎」は16世紀の室町時代にすでに飲まれていたとされています。
当時の焼酎は、米や雑穀などを原料に作られたものだったようです。
1546年(天文15年)、薩摩半島の南端、山川港に上陸したポルトガルの商人が見聞録を残しています。
その中に当時の日本人が「オラーカ」という米から作る蒸留酒を常飲しているくだりがあります。
この「オラーカ」こそが、今で言う焼酎のことだとされています。
つまり、この時代の鹿児島には米焼酎があったことを示しています。
しかし、この頃に鹿児島で飲まれていたのは、あくまでも米焼酎。
芋焼酎が造られるようになるのは、それからさらに100年以上経ってからです。
また、日本人が「焼酎」について残した最古の記録が鹿児島県伊佐市の郡山八幡神社で発見されています。
それは、1559年(永禄2年)に神社の改築工事に携わった2人の宮大工が残した落書きです。
そこに「焼酎」の文字が確認できます。
「其時座主ハ大キナこすてちをやりて一度も焼酎ヲ不被下候何共めいわくな事哉」
(※改築の時、神社の主がケチで一度も焼酎をふるまってくれなかった、とてもがっかりだ)
この落書きをした木片は1954年(昭和29年)の解体修理で発見されています。
これが現存する日本最古の「焼酎」という文字であるとされています。
【蒸留酒】
蒸留酒とは、穀物や果実などの原料を発酵させ、この発酵液(醸造酒)を蒸留し濃縮した酒。
スピリッツとも呼ばれ、基本的に醸造酒よりアルコール度数が高い。
醸造後に加水した場合でも蒸留酒とされるので、アルコール度数を大きく落とすことも可能である。
【醸造酒】
醸造酒とは、原料を酵母によりアルコール発酵させて作られた酒。
一般に蒸留酒に比べアルコール度数は低い。
原料には主に米や麦などの穀物や、ぶどうなどの果実が使われる。
作り方がシンプルなので原料の味と風味をダイレクトに感じられる。
【混成酒】
混成酒とは、醸造酒や蒸留酒などの既製の酒に果実や香味料、甘みなどを加えて作られた再製酒。
混成酒のアルコール度数は、元となる酒の種類によって異なるため、醸造酒や蒸留酒との比較は難しい。
●「焼酎の分類」について
本格焼酎とは、大まかに言えば焼酎の分類の一つです。
焼酎は、「甲類」「乙類」の二つに分類されます。
本格焼酎は、このうち「乙類」のことを指します。
「甲類」「乙類」の一番大きな違いは、蒸留方法にあります。
●「焼酎甲類」について
焼酎甲類は、蒸留を繰り返して不純物をできるだけ取り除く「連続蒸留」という方法で作られます。
連続蒸留されることにより、無色透明でクセのない味わいの焼酎が出来ます。
「ホワイトリカー」とも呼ばれ、果実を漬けたり、割って飲むのに非常に向いてます。
梅酒などの果実酒を作る際には古くから利用されてきました。
また、酎ハイやサワー、カクテルなどのベースとしても広く利用されています。
●「焼酎乙類」について
焼酎乙類は一度しか蒸留しない「単式蒸留」という方法で作られます。
日本の税法上ではアルコール度数は45%以下のものを指します。
蒸留の仕組みが非常にシンプルなので、原料や麹に由来する風味や味わいになります。
沖縄の蒸留酒「泡盛」も乙類の一種に分類されます。
焼酎が甲類と乙類に分類されたのは、1949年(昭和24年)の酒税法によります。
この時、単純に酒税が高いほうを甲類としました。
しかし、通常、「甲乙」の称は等級の順位でも使われる表現のため、誤解を招きかねませんでした。
これを危惧したのが、当時の霧島酒造社長・江夏順吉氏でした。
江夏氏は1957年(昭和32年)に九州旧式焼酎協議会において「本格焼酎」という呼称を提唱。
その結果、1971年(昭和46年)から「本格焼酎」とも呼べるようになりました。
そして、現在はこの「本格焼酎」の呼称が定着しました。
本格焼酎には、様々な種類のものがあります。
現在、日本では多くの種類の焼酎が作られ広く飲まれています。
原料によって味が異なるため、それぞれの風味を楽しむことが出来ます。
多種多様な原料の中で広く知られたものをご紹介します。
●【芋焼酎】
原料にさつま芋を使用し、鹿児島県や宮崎県、伊豆諸島などで盛んに作られています。
さつま芋は火山灰で覆われたような、やせた土地でも強く育ちます。
江戸時代の享保の大飢饉の際には、さつま芋が薩摩の人々を救いました。
原料として最も多く使われるのが、黄金千貫という品種。
他には、紅あずま、紅さつま、ジョイホワイト、紫芋、安納芋など多くの品種があります。
品種や麹によって味は大きく変わりますが、原料の風味が強く表れた焼酎が出来ます。
特徴は、さつま芋の豊かな香りと甘みです。
●【米焼酎】
原料に米を使用し、熊本県の球磨地方をはじめ、全国各地で広く作られています。
日本人に一番なじみのある米を原料に作られる焼酎です。
原料の米は日本酒や米麹にも利用され、酒造りでは重宝されています。
製法によって異なりますが、濃厚なタイプと淡麗なタイプがあります。
特徴は、米の芳醇な香りと旨味のコクです。
●【麦焼酎】
原料に大麦を使用し、大分県や長崎県壱岐島、九州全域などで広く作られています。
麦は米と並んで、日本人が重宝してきた穀物です。
長崎県壱岐島が麦焼酎の発祥の地とされています。
その後、商業ベースで大分県で広く造られるようになりました。
現在は、麹も麦でつくる麦麹焼酎も広く飲まれています。
特徴は、香りにクセがなくスッキリして軽やかな味わいです。
●【そば焼酎】
原料に米や麦が使用されています。宮崎県や長野県などで広く作られています。
米や麦が原料に使われているのは、そば単体では発酵力が弱く仕込みにくいからです。
そのため、一般的なそば焼酎では麹に米や麦を使用しています。
つくり方も様々であるため、多彩な味わいの焼酎が出来上がります。
特徴は、そば特有のフレッシュな香りと独特なコクと柔らかな甘みです。
●【黒糖焼酎】
原料に黒糖を使用し、鹿児島県奄美群島で広く作られています。
サトウキビは奄美地方の特産品で、黒糖の原料になります。
長寿の島で知られ、黒糖焼酎は健康に良いお酒とされています。
黒糖というと甘そうなイメージですが、糖分ゼロの焼酎です。
特徴は、爽やかで軽い口当たりと黒糖のほのかな甘さです。
●【その他の原料】
(あ行)
アシタバ、小豆、アマチャヅル、アロエ、梅の種、エノキ茸
(か行)
カボチャ、牛乳、銀杏、葛粉、クマ笹、栗、玄米、黒糖、ゴマ、昆布
(さ行)
酒粕、サフラン、サボテン、椎茸、シソ、じゃが芋
(た行)
大根、竹、玉ねぎ、デーツ、トウモロコシ、トマト
(な行)
長芋、人参、葱、海苔
(は行)
ピーマン、ひまわりの種、ふきのとう、ベニバナ、ホテイアオイ
(ま行)
またたび、抹茶、マテバシイの実
(や行)
ゆりね、よもぎ
(ら行)
落花生、緑茶、蓮根
(わ行)
わかめ
など、多くの原料があります。
●麹の働き
焼酎において欠かせないのが「麹」。
焼酎づくりでは、まず、この麹づくりから始まります。
麹とは、カビの一種で、酒造りにおいては、デンプンを糖化させる働きをします。
麹の主原料になるのは、主に米です。
まず、米を蒸して麹菌をまぶし、米麹を作ります。
そして、出来た麹が焼酎づくりで大きな役割を果たすのです。
そのかわり、主成分は「デンプン」という形で蓄積されています。
焼酎のアルコールは「発酵」によって作られますが、デンプンのままでは発酵しません。
麹の働きでデンプンを糖分に変えることで、発酵できる状態にしています。
焼酎づくりに使われる麹には「黒麹」「白麹」「黄麹」などがあります。
そのうち、どの麹を使うかによって焼酎の味が大きく左右されます。
●「黒麹」について
黒麹は温暖な南九州での焼酎造りに適しており、泡盛同様に古くから利用されてきました。
もともと焼酎造りは全て黒麹で作られていた、とも言われる代表的な麹です。
黒麹はクエン酸を生成することができるため、麹が腐敗しにくくなる利点があります。
しかし、菌の色が黒っぽいため、仕込みの際に蔵が黒く汚れるのが難点でした。
そのため、しばらく白麹が主流になった時期があります。
近年では、黒麹の良さが見直され多くの酒造が黒麹で仕込むようになりました。
黒麹を使った焼酎は、黒麹特有の香味と濃厚で骨太な味が特徴です。
力強くキレがあるのも特徴でやや辛口になる傾向もあります。
●「白麹」について
白麹は黒麹の突然変異によって生まれたもので、黒麹同様にクエン酸を生成します。
発祥は大正時代と言われており、比較的新しい麹です。
その後、白麹は九州各地に広がっていきました。
現在でも、九州地方の焼酎づくりでは盛んに使用されています。
白麹の良い点としては、黒麹とは反対で蔵が汚れにくいことです。
白麹を使った焼酎は、やわらかい味でスッキリとした味が特徴です。
原料の風味が優しく引き出されるため、飽きの来ない味わいとなります。
●「黄麹」について
黄麹は日本酒の仕込みに使用される麹菌です。
黒麹や白麹のようにクエン酸を生成できない為、雑菌が繁殖しやすくなってしまします。
そのため、温暖な地域には不向きだとされてきました。
しかし、現在は温度管理技術の向上で使用できるようになりました。
黄麹を使った焼酎は、爽やかでフルーティなのが特徴です。
非常にクセがなく飲みやすいので女性や焼酎初心者に受け入れられやすい味わいになります。